作品情報
『ブラック・フォン』
監督:スコット・デリクソン
製作:ジェイソン・ブラム
原作:ジョー・ヒル 短編小説『黒電話』
製作会社:ブラムハウス・プロダクションズ
【出演者】
イーサン・ホーク(グラバー役)
メイソン・テムズ(フィニー・ブレイク役)
ミゲル・カサレス・モーラ(ロビン・アレラーノ役)
マデリーン・マックグロウ(グウェン・ブレイク役)
2022年公開 上映時間1時間43分 アメリカのサイコスリラー映画です。
スティーヴン・キングの息子、ジョー・ヒルの短編小説『黒電話』を原作に映画化。
『パラノーマル・アクティビティ』や『インシディアス』など、低予算ながら評価の高いヒット作を生み出し続けるブラムハウス・プロダクションズが製作しています。
直接的に残酷な描写は少ないですが、子供が誘拐・監禁される話なので、ある意味幽霊や悪魔的なものよりも怖く、辛い気持ちになるシーンもあります。
ただ、ストーリー展開はスムーズで主人公の少年が強くなっていく描写が好きです。すごくいい映画だと思います。
※※ 以下、ネタバレを含みます ※※
先に作品の視聴をお願いします。
『ブラック・フォン』ストーリー
1978年コロラド州、主人公の少年フィニーは母親を亡くしており、妻を失ったことで暴力的になってしまった父親と妹グウェンの3人暮らし。フィニーの住む町ではグラバーと呼ばれる犯人による少年の連続誘拐事件が発生していた。
ある日の学校の帰り道、フィニーはマジシャンだという男に声をかけられ、そのまま誘拐されてしまう。
目を覚ました時には、どこかの家の地下室だった。
あるのはマットレスと断線しどこにもつながらない黒電話だけ。
グラバーの隙をついて逃げようとしたその時、つながらないはずの黒電話が鳴り始める。
おそるおそる出てみると、電話の相手は今までグラバーの犠牲となった少年たちだった。
それぞれが試した脱出方法を教えてくれる少年たち。しかし全て失敗に終わる。
フィニーは逃げ出すことは出来ないと悟り、泣き出してしまう。
その時また鳴り出す電話。最後の電話の相手はいじめられている時助けてくれた友人のロビンだった。ロビンからは逃げ方ではなく『戦い方』を教わったフィニー。
グラバーを倒し、無事家族と再会することが出来たのでした。
『ブラック・フォン』感想・考察
感想
生きた人間の怖さと幽霊の怖さ両方を見せてくれる映画でした。
グラバーに殺されてしまった少年たちの幽霊はフィニーに助言してくれる存在でしたが、殺された時の姿で現れるので急に出てくるとびっくりしますね。ただ、ロビンがそばにいた時だけは見えて欲しいと思ってしまいました。幽霊から電話で脱出方法を教えてもらうという他にない設定でとても面白かったです。少年たち全員の経験がグラバーを倒すためには必要だったという無駄のない最後で、これによってグラバーは誘拐した少年たち全員に負けたことになりました。殺されてしまった少年たちは戻っては来ませんが、少しでも無念を晴らす事が出来ていればいいですね。
子供が誘拐されて脅されて、普通ならすぐ泣き叫んでいるような状況ですが、フィニーは怯えながらも、周りを見て出来ることを考え実行するという冷静さを見せました。ロビンの『君は殴られても何度でも立ち上がった。そこが似てたから友達だったんだ』『君はファイターだ』との言葉の通り、フィニーは最初から強い子でした。友達のためと覚悟を決めれば恐怖に打ち勝ち戦うことが出来るという、子供でありながら心は強いキャラクターでした。後述しますが、グラバーは大人だか心は弱い人間に私には見えました。2人の対照的な描かれ方が私の好きなポイントです。
グラバーの動機
グラバーの犯罪動機については作中で明かされていません。誘拐した子供たちを監禁、殺害はしていますが、強姦、屍姦などはしていないようなので、性犯罪目的ではないのかなと思います。そして『少年』ばかり狙っていることと、地下室の電話は「子供の頃からつながらない。」と自身も電話で助けを呼ぼうとしたことがあるかのような発言、そしてフィニーが父親から虐待されていた描写から、グラバーも幼い頃、大人の男性に虐待されていた、つまり、父親に虐待されていた。という背景が見てとれそうです。
もしグラバーが父親に復讐心を持っていれば、大人の、父親に似た、人を傷つけるタイプの男性を標的にしそうですが、少年を標的にしているということは、未だに父親に虐待されていた世界から逃げられずにいるような気がします。個人的には傷つけることを楽しんでいるとか自分より弱いものに力を誇示して優越感を得ようとしているというよりも、素行の悪い少年を見て、自分なら殴られていたのに、あいつらは好き勝手出来る、ずるい、俺が代わりにお仕置きしてやろう。みたいに過去に父親に受けた虐待を思い出し、同じ思いをさせてやろうと思って始めたことなのかなと思いました。だから悪い事をした時しかグラバーは手を出せなかったのかなと。
ただ、続けていくうちに罰を与えることを楽しむようになっていったのかもしれないですが、それでも、サイコパスとか恐ろしい存在というよりは、心は成長できず弱いまま体だけ成長してしまった大人という印象を受けました。仮面がなければ自分を出せない弱々しい部分が可哀想なキャラクターでした。また、多重人格なのではと捉えられる場面もいくつかありました。『殺したのは俺じゃない他の誰かだ』というセリフや『君が嫌がることをさせたりはしない』と言ったり、フィニーの寝顔を観察し、ただ君を見たかった。と言ったり、この、ただフィニーを見ていただけのグラバーは心なしか優しそうでした。その度に仮面が変わりますが、人格が入れ替わってることを示す役割もあるのかもしれません。実際、虐待を受けていると主人格を守ろうと無意識のうちに別人格を作り出したりすることもあるようなので。
本来の人格と誘拐や殺人を担当する人格、子供を愛でたり、ご飯を運んだりする人格、もしかしたら全て違う人格で各々役割があるのかもしれませんね。
2025年10月に続編となるブラック・フォン2が公開予定なので、そこで詳しい動機が描かれるかもしれません。
グラバーのモデル
グラバーにはモデルとなった実在の人物がおり、それが、キラー・クラウン(殺人ピエロ)という異名を持つ連続殺人犯のジョン・ウェイン・ゲイシーです。
Netflixのゲイシーとの対談から生い立ちや殺人に関するインタビュー音声、関係者の話を聞く限りでは、映画のグラバーは主にゲイシーの『行動』や『虐待を受けていた』という表面上のところをモデルにしているように感じました。家出をしたり仕事を探している青年を家に連れてきては、『手品を見せてあげる』といい、手錠をかけたり、人にストレスやプレッシャーをかけ反応をみたがったり、警察の監視や尾行を楽しんだり、ある種『ゲーム』をしていたところ、多重人格を主張していたところや地下に死体を隠していたところ等をグラバーの要素にしたのかなと思います。
また、ゲイシーは、ピエロの格好では、女性の膝に座ったり、触ったりしてもなにも言われない。普段の自分には出来ないことが出来る。ピエロは殺人からも逃げられる。と語っており、自分を『隠す』という要素としてグラバーには仮面という形で持ってきてましたね。
続編でグラバーのことがどのように描かれるかは分かりませんが、性格や考え方的な内面部分は個人的にはゲイシーとは違うような気がしました。ゲイシーも父親に虐待をうけてましたが、父親を愛し、父親に認められたい一心で人一倍努力し、慈善活動も行い、社会的に成功をおさめてました。しかし、それゆえ自分は人より優れていると考え傲慢な性格になっていったようです。
初めて殺人をおかしてからは、決まった理由なく、殺人を続けており、興奮も味わえて、なおかつバレなかったから続けたのか、男性を選んでいる理由も、女性より警戒心がなく連れ込みやすかっただけなのか、自身の会社で青年を多く雇っていたから手を出しやすかったのか、他で言われているように彼自身が同性愛者だったからなのか、本当のところは正直よく分かりませんでした。
ただ、幼い頃に受けた傷が彼を怪物にしてしまったことは確かだと思います。
フィニーと少年たち
グラバーに監禁されたフィニーは黒電話を通じて他の少年たちと会話していましたが、初めにかけてきた野球少年のブルースは電話が通じたのはフィニーが初めてだと言いました。フィニーの妹も母親譲りの予知夢のようなものが見れる能力がありましたが、フィニーもまた死者と繋がれる能力があったのかもしれません。
また、少年たちはフィニーにたくさんのヒントを与えてくれましたが、フィニーを助けるためというよりは自分の死体を見つけて欲しいからフィニーを生かそうとしてましたね。純粋にフィニーのことを助けようとしてくれていたのはロビンだけでした。そして、先に殺された少年たちが自分の名前を思い出せないのは、名前とは肉体の呼び名であって、肉体がなくなった魂状態では覚えていられないからなのかなと思いました。
フィニーとグラバー
感想の部分でも書きましたが、フィニーは恐怖を感じながらも冷静に少年たちの助言に従い、1つ1つは全て失敗に終わってしまったものの、最悪な状況下で最大限自分の出来ることをしました。そして結果的にグラバーは自分より劣る弱い相手だと思っていた少年たちに負けました。
物語的には子供が1人で戦い恐怖に打ち勝ち悪者を倒したというハッピーエンドなのですが、犯罪者とはいえフィニーが人を殺してしまったことも事実です。虐待を受けて育ち、人を殺してしまうという事実だけをみると、フィニーとグラバーは同じ道をたどっているように見えます。しかし、フィニーには妹やロビンといった味方になってくれる存在がいたこと、父親に関しても、元々子供たちまで失いたくないという思いからの虐待でしたが、フィニーの無事を確認し、今までのことを謝り涙していたのを見ると、フィニーが第2のグラバーになる可能性は低そうです。
続編では、グラバー役のイーサン・ホークも続投とのことで、実際はグラバーは死んでなかったのか、ただ回想シーンで出てくるだけなのかは分かりませんが、新たな物語、そしてもっと深くキャラクターたちについて知れることを楽しみにしています。

最後まで読んで頂きありがとうございました。