作品情報
サンダーボルツ*
原題:『Thunderbolts*』
監督:ジェイク・シュライアー
脚本:エリック・ピアソン
出演者
フローレンス・ピュー(エレーナ・ベロワ役)
セバスチャン・スタン(バッキー・バーンズ役)
ワイアット・ラッセル(ジョン・F・ウォーカー役)
デヴィッド・ハーバー(アレクセイ・ショスタコフ/レッド・ガーディアン役)
ハナ・ジョン=カーメン(エイヴァ・スター/ゴースト役)
オルガ・キュリレンコ(アントニア・ドレイコフ/タスクマスター役)
ジュリア・ルイス=ドレイファス(ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ役)
ルイス・プルマン(ロバート・レイノルズ【ボブ】役)
2025年5月2日、日米同時公開 アメリカのヒーロー映画
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の各作品で悪役やならず者として登場したメンバーがチーム『サンダーボルツ』としてNYを危機から救う物語です。
※※ 以下、ネタバレを含みます ※※
先に作品の視聴をお願いします。
『サンダーボルツ*』ネタバレ解説
CIA長官 ヴァレンティーナ
「ファルコン&ウインター・ソルジャー」(2021)、『ブラック・ウィドウ』(2021)、そして『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022)と何度か登場しているヴァレンティーナ(通称:ヴァル)が今作の敵の一人となります。CIA長官という立場の彼女ですが、物語初めから、過去に人体実験などに関わっていたとして追及されます。
各作品でサンダーボルツとなるメンバーに接触していましたが、皆自分の部下にしてたんですね。映画ブラック・ウィドウではエレーナにナターシャが死んだのはクリント(ホークアイ)のせいだと伝え殺すようそそのかしてましたから、いいキャラではないんだろうなとは思ってましたが、今作では後にサンダーボルツになる自分の部下たちを証拠隠滅のため殺そうとも目論見ます。
結果的にはサンダーボルツがNYを救ったという状況をうまく利用して捕まらないように動いていました。また、彼女も過去に辛い出来事を経験していたようで、同じく過去に苦しみながらも正しいことをしたいと思っているサンダーボルツメンバーとは対照的に描かれていました。支えてくれる人たちがいなければサンダーボルツも皆ヴァルのようになっていたかもしれないですね。
7月25日(金)公開の『ファンタスティック4:ファーストステップ』にもつながる最後だったので、これからの作品でどのように関わってくるのか楽しみです。
サンダーボルツ結成
サンダーボルツのメンバーは予告や公式的には『エレーナ』・『バッキー』・『ジョン・ウォーカー』・『ゴースト』・『アレクセイ』・『タスクマスター』の6人です。バッキーとアレクセイ以外は皆ヴァルの部下として働き、ヴァルの悪事の証拠隠滅のため殺し合うよう仕組まれた任務先で出会います。しかし、任務先で殺し合っていた段階で、タスクマスターは退場となりました。まだ皆敵同士で全くチームとなる段階ではなかったため、実は生きているのだろう、後から出てくるよね。と思っていたのですがこの乱闘シーン以降は一切登場せず、ウォッチタワー(旧アベンジャーズタワー)でセントリーとなったボブと戦った際に、他メンバーと一緒に立っている画像もパンフレットにあるのですが、映画では映ってませんでした。割とあっさり退場してしまったため、少し残念でした。
ヴァルに騙されたと気づいたタスクマスター以外の4人とボブは協力して施設から脱出し、その後エレーナを心配して来たアレクセイが合流し、ヴァル弾劾のためエレーナたちを捕まえに来たバッキーも合流しました。さんざん予告でやってたのでみんな知ってる場面かと思いますが、ハーレーダビッドソンに乗って登場するバッキーは最高にかっこよかったです。議員という似合わない事してますが、正義のために戦う手段としてやってるだけで、やっぱりバッキーはこっちだよねと思ったシーンです。
エレーナの成長
ナターシャ(ブラック・ウィドウ)を姉に持つ彼女ですが、映画『ブラック・ウィドウ』(2021)で家族と再会し、偽の家族だったけどお互い愛があったと分かった矢先に姉を失ったことで、今作の登場時は喪失感や虚無感で苛まれていました。しかし、ひたすらに仕事をこなし、過去を振り返っては嘆くだけの日々に嫌気がさし、ヴァルに裏仕事をやめ表に出る仕事がしたいと頼み込みます。
最後の裏仕事だと言われ向かった先でサンダーボルツメンバーとボブ(ヴォイド/セントリー)と出会い、弱々しいボブを唯一最初からずっと気遣い守っていました。暗殺者として育てられた悲しい過去を持つ彼女ですが、それゆえに人の痛みが分かる優しいキャラクターです。
ドラマ『ホーク・アイ』(2021)では姉の復讐でクリント(ホーク・アイ)を殺そうとしますが、ちょこちょこ邪魔をしてくるケイトにはあしらう以上のことはせず、姉が世界を救うために自ら犠牲になったこと、妹を愛していたことをクリントから告げられると悲しさを抱えながらも納得し、復讐をやめにしました。
辛いことは遠くに押しやればいい、人は皆孤独だと初めはボブに語っており、たくさんの辛い感情を押し殺して生きてきた彼女ですが、物語最後では、父親であるアレクセイ(レッド・ガーディアン)からの愛と励ましを受け取り、誰かといることの大切さを知った後、苦しむボブを抱きしめヴォイド(ボブの負の面)から救うことが出来ました。
アレクセイと言い合いになったり、力を手に入れ一時ヴァル側についたボブに敗北した後、感情を爆発させたりしましたが、最終的にはサンダーボルツという仲間を手に入れることが出来ました。これから先はもう寂しくないといいですね。
サンダーボルツメンバーとボブの過去
サンダーボルツメンバーは全員過去に対して何かしらの後悔を抱えています。基本的には抗えなかったり選択肢がなかった状況下でですが、いわゆる『悪』と呼ばれる行いをたくさんしてきました。バッキーの過去は、映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ウィンター・ソルジャー』(2014)や映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021)などで詳しく描かれています。ジョン・ウォーカーに関しても同じく、ファルコン&ウィンター・ソルジャーで知ることが出来ます。
今作では主にエレーナとボブの過去をいくつか知ることが出来ます。エレーナは殺人だけではなく、暗殺者として訓練される中で幼い頃から心にも体にも傷を負ってきたことが分かりますし、ボブも同じく幼い頃の家庭環境によってヴォイドを生み出してしまっていました。現実でいえば、虐待を受けている子供が、自分を守るために別人格を作りだしてしまうという現象がありますが、どちらかというと、多重人格というよりも辛い経験で生まれた負の感情に飲み込まれた結果、犯罪を犯すようになってしまった人を連想させます。
傷を抱える彼らだからこそ、お互いの痛みも分かり、支え合うことが出来た。人は過ちを犯しても、傷があってもその経験全てを糧にして誰かを救うことが出来る。そして誰かを救うことで自分自身をも救っていけるのだと教えてくれる映画でした。
『サンダーボルツ*』感想・考察
面白かったです。サンダーボルツ大好きです。ただ、ちょっと雑談シーンが長いなと思ったり、今までのアベンジャーズシリーズが派手すぎたのと、今回の映画は登場人物たちの心にフォーカスした内容だったので、若干物足りないと思う人もいるかもしれません。しかし、各キャラクターたちの物語を知っている人なら確実に心に来るものがあるし、泣いちゃうかもしれません。キャラクターたちの過去を知らなくても、今回初めて登場したボブの痛みがわかりやすく描かれているので、映画のメッセージはちゃんと受け取れると思います。
サンダーボルツ*の中心はエレーナで、リーダーはバッキーという感じでした。
エレーナはブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフの義妹で姉と同じく高度な技術を持つ暗殺者です。幼少期はナターシャと母と父(アレクセイ)を本当の家族だと思い過ごしており、大人になった後でも全てが噓だったことに傷つき涙を流すほど、本来は優しく、家族に甘えたい『妹』なのだと思います。
ドラマ『ホーク・アイ』ではナターシャの復讐でホーク・アイことクリント・バートンを殺そうとしました。どうにもできないくらいの怒りと悲しみは、ナターシャを本当に姉として慕い、愛していた証拠です。
父のアレクセイとはお互い素直になりきれず、最初は微妙な距離感でしたが、それでも仕事と生き方に悩んだ際に彼に会いに行く決断をしたのは、やはり家族として、お父さんとして、見てるからでしょう。同じく家族の存在に助けられていたキャラのソーですが、彼が辛いときはお母さんが励ましてくれていました。でもエレーナを励ますのはいつだってアレクセイなのがいいですね。
今作では正体不明のボブに寄り添い、最初から最後まで常に守り助けようとしていました。しかしエレーナ自身も初めは自分の過去や大きくなる虚無感に立ち向かえず、人は皆孤独で辛いことは遠くに押しやればいい。とボブに語っていましたが、物語終盤ヴォイドに負けそうになるボブにかけた『私はここにいる。あなたは一人じゃない』との言葉は、誰かと一緒にいる事の大切さに気付いたエレーナの成長と優しさが分かるとても良いシーンでした。
わりとすぐに拗ねて毒づいちゃうけど、優しく・愛があり、誰よりも傷つきやすい。でも寂しい、助けてほしいと言える素直さと強さがあるキャラクターです。
バッキーは、初代キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースの親友で、ヒドラに捕らえられ洗脳され暗殺者として長年利用されてきました。ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では初代ファルコンこと2代目キャプテン・アメリカことサムの助けもあり、自身の過去と向き合うことが出来、友人でもある、自分が過去に殺した人物の父親に自分の罪を告白するという、相当勇気を出さなきゃ出来ない事をやり切りました。信じられないくらい怖かったと思います。
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』と今作では新人議員として今までとは違った形で正義のために戦っています。サンダーボルツメンバーをまとめた彼ですが、このまとめ役はバッキーにしかできない事だったと思います。メンバーの中で一番経験豊富で乗り越えてきたものも多く、一番つらい経験をしていると思うからです。辛かった時の時間の長さや出来事の大小ではなく、バッキーだけは上述したように自分の過去に向き合い、そして乗り越えてきました。それが出来たバッキーだからこそサンダーボルツメンバーに語った、過去と向き合うか、抱えて生きるかという言葉に誰も何も返せなかったのだと思います。バッキーに言われたら、お前に何が分かるんだなんてこと絶対に言えません。
自分のもつ痛みを武器にし戦うバッキーは最高にかっこいいです。
ボブと相対したとき、絶対に勝てないと分かった後でも最後まで立ち向かったのはバッキーでした。結果、勝てないしそこまで長くもないシーンですが、どんな敵にも諦めないで立ち向かう姿はスティーブと重なります。バッキーはやはりスティーブの親友なのだと思い出させてくれました。
サンダーボルツ*のキャラクターたちは、ただ強い敵を倒すために集められたのではなく、痛みや悩みを抱えながらも誰にも寄りかかれず一人で傷ついている人々に、あなたは一人じゃないのだと、辛いときに一人でいる必要はないのだと気づいてもらうために集められたキャラクターだと思います。皆常識外れで生意気に見えても、心の中では本当は寂しさや虚無感、後悔、怒りや、やるせなさを抱えています。
初代のアベンジャーズは皆何があっても常に前を向いていました。ぶつかり合うことやうまくいかないことがあっても、常に成長と前進を続けてきた、ヒーローでした。しかし、サンダーボルツの面々はちょっとしたことで感情をむき出しにする、ヒーローどころか人としても完璧ではないキャラです。そして、初代アベンジャーズと違い空も飛べない、ビームも出せない、神様もいない、一人で出来ることには限界がある。そんなメンバーです。でも誰よりも傷ついてきた人たちです。その過去の経験や痛みがあるからこそ支え合えるのです。痛みが彼らの武器であり最大の魅力です。エレーナがボブに言った『私はここにいる。一人じゃない』このセリフが全てだと思います。苦しみがわかるからこそ、家族としての絆は初代アベンジャーズよりも強くなるかもしれません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。